卵が壁に勝つ方法についての考察その2 続・壁になった卵たちの話

前回、「壁になった卵たちの話」を書いて、次は、「壁の中の卵と話す方法」とかに思考を進めるつもりでいました。
「壁の一部になっていた卵が壁から離れる瞬間」というのも、実体験として見たこともあるし、そういった事例をいくつかピックアップし、なんらかのヒントにたどり着きたかったのです。
けれど、その前に、ちょっと書き残した「壁になった卵たち」のことがあるので、今日はそちらについて筆を進めます。
つい先月ですが、オリンパス裁判の高裁判決が出ました。
http://www.janjanblog.com/archives/48734
これは、オリンパス株式会社の社内通報制度に従って上司の行動について通報した社員が、それが原因で不当な配置転換をさせられたとして、配置転換の無効確認や損害賠償などを求めた控訴審です。
この「通報した社員」が浜田正晴さん。
2007年に、オリンパスの社内通報制度にしたがい、法令違反の疑いのある上司の行動をオリンパス社内に設置されている「コンプライアンスヘルプライン室」に通報。
その結果、オリンパスの役員が相手の会社に謝罪し、法令違反の疑いのある動きは阻止されました。
しかし、その後、浜田さんは「壁」に打ちのめされることになります。
まず、通報の数ヶ月後、人事異動が発令。浜田さんは閑職に追いやられます。
そして、与えられた境遇は、「部署外の人との許可なしの連絡禁止」「仕事は資料整理のみ」「長期病欠者並みの人事評価」でした。
どうしてそういう報復的人事になったかというと、通報窓口への通報内容が、上司たちにもリークされていたからです。
浜田さんが追いやられた部署は、その上司が管轄する別の部署。
暴漢の犯罪を警察に通報したらそこの警官が実は暴漢とグルだった、というまるで安物映画のような設定です。
で、これはその上司の個人的な報復だけなのでしょうか。
そうではありません。
「組織という壁」を破壊しようとするものに対する、組織としての、個人への攻撃です。
なので、浜田さんにつらく当たるのは、その上司だけではありません。
他の仲間の社員もみな、浜田さんを村八分にするわけです。
「いびり役」の人もいて、その人から名前を呼び捨てにされる、フロアの誰もが浜田さんを無視する、「浜田君教育計画」という予定表が作成される、など、「組織的」な人格攻撃がなされます。
しかし、これを「組織」による、「組織を壊そうとする人」に対する攻撃、と理解するだけでよいのでしょうか?
(もちろんそういう側面もありますが)
ここで、その「組織的な人格攻撃」に参加する人の中には、もともと浜田さんと気のあった仲間もいたはずです。
一緒に上司の愚痴を言い合った飲み仲間もいたかもしれません。
浜田さんが仕事を教えた後輩だっていたことでしょう。
そんな人たちが、どうして攻撃に参加する羽目になったのか?
わたしは、この構図に、いわゆる「イジメ」にとても近いものを感じます。
特定の集団の中で「イジメ」が発生したとき、安全なのは、「自分がイジメる側」にいる時です。
もし「イジメ」が発動した場合、
「○○さんは悪くない!」
と誰かが庇ったならば、その声を上げた人も同様にいじめられる恐れがあります。
実際に、そうした勇気の発露によって、とんでもない苦労を背負い込んだ人もいるはずです。
つまり、オリンパスで起きた組織的人格攻撃は、「組織を守るため」という大義をいただいた「自分はいじめられたくない」という個体の保身欲求だったと考えられます。
特定の状況下で「○○さんは悪くない!」と声を上げることは、その個体に対して甚大なリスクをもたらすことがあるからです。しかも、そのリスクは、システマティックな手法というより、もっともやもやしたプレッシャー(いわゆる「場の雰囲気」?)によって具現化されます。
ところで、鳥の群れが大きな塊となって飛ぶ様子を見たことがあるでしょうか。
まるで「塊」そのものがひとつの生き物のように動きながら形を変えていきます。
あれは、そういう飛び方をすることで「自分を守っている」のだそうです。
その動きをコンピューターでシミュレーションしたソフトがありますが、原理は、「隣接する固体との位置関係をどう保つか」というようなものだったと記憶しています。
「保身のためには他人もいじめることができる」
これは、人という種のもつ「業」なのかもしれませんが、この動きを加えたシミュレーションソフトは、どんな「群れの動き」を描画するのか興味があります。
さて、エルサレムで「壁」「卵」についてスピーチした村上春樹氏は、小説「1Q84」の中でリトルピープルという存在を書いています。
リトルピープルを、現代において「卵」に仇なす不可知の存在とする解釈がありますが、「1Q84」BOOK3の中では、リトルピープルは、牛河の亡骸から続々と出現していました。
人はみな、その中に「卵に仇なす存在」を宿しているのかもしれません。

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