茂木健一郎、音楽についての連続ツイート

ツイッターは140文字以内の書き込みなわけですが、ときに、「連続ツイート」することで、ちょっと長文のコラムにする人もいます。
脳科学者の茂木健一郎さんもそうで、彼は、ほぼ毎朝、なにかのテーマについて連続ツイートしてます。
今日のテーマは音楽。
いちおうミュージシャンとしては興味ある分野で、読んでみたらこれがまたよい内容。
ツイッターだから、放っておけばどんどん流れて行くし、
なにかに記録しないともったいないし、わたしが解説するのもなんなので、
その連続ツイートの全文を載っけてしまいます。
こんなツイートです。
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音楽(1)
音楽をあらわす言葉musicには、もともと、「音」という意味はない。
芸術の神Museにかかわるもの。だから、天体の運行の妙なる調和もmusicであり、人体の美しい比率もmusicとなる。
そのような視点から見ると、私たちの周囲には音楽があふれている。
音楽(2)
パウル・クレーは、もともと音楽家を志していた。
彼の作品の中には、音楽が流れている。
色彩の配置、かたちのバランス、モティーフの混合の中に、何とも言えない素晴らしい調和と響き合いが感じられるのだ。
その絵の音楽は、まさにMuseへと至る道筋を示す。
音楽(3)
私たち一人ひとりは、楽器を使わなくても音楽家である。
しゃべる言葉は、そのリズムやイントネーション、響きを通して音楽となる。
言葉の意味だけでなく、印象がいかに人に伝わるか、感じ合えるかと考えた時、日々の何気ない会話が音楽セッションとなる。
音楽(4)
朝起きてから寝るまで、私たちは音楽を奏でている。
さっと切り替えて、違うリズムで動き始めたり、他人と「話者交代」を通してビートを刻んだり、手足を繰り出す脈動、顔の表情の変化、すべてが比率を持ち、平行するハーモニーがあり、全体として音楽となっているのだ。
音楽(5)
脳の中の神経細胞の活動も、また音楽である。
その情報処理において、同期や位相が重要な意味を持つ。情報が統合される上でも、a, b, cの順番で到達するのと、a, c, bで到達するのでは結果が異なる。
私たちの脳の中には、常に、神経細胞の壮大なハーモニーがある。
音楽(6)
頭のいい人とは、脳の神経細胞の音楽がすぐれた人のことである。
感性のいい人とは、脳の神経細胞の音楽が光る人である。
そのような脳内音楽に、外部からの音楽が入り込み、響き合うことで共鳴する。
外から入る「音楽」は、もともと脳内にある「音楽」を補完するに過ぎない。
音楽(7)
すべては音楽から始まる。私たちはもっと感覚的でいい。
リズムを刻むことに夢中になっていい。
生命を止める理屈から自由でいい。
他人の音楽に耳を傾け、自分という楽器を響かせることでいい。
指揮者のいない脳内音楽に、思う存分浸っていい。
時間の進行に没入していい。
音楽(8)
私たちは、朝から晩まで、即興演奏を続けている音楽家である。
叩いたり、弾いたり、吹いたりしながら、私たちは生き続ける。
その過程で文字を生み出したり、作品を残したりするが、それは、私たちの生命音楽の残滓でしかない。
肝心の音楽は時間とともに消えてしまうのだ。
音楽(9)
生命音楽の記録装置は、残念ながらない。
つまり、私たちの生命のいちばんの本質は、流れる時間の中に自ら浸り、動き感じるしかないということ。
音楽を奏でながら、音楽に耳を傾けながら、音楽を生きる。
演奏を死ぬまで続ける。
ミュージシャンばんざい。ダーッといこう。
以上、生きるということの「音楽」(music)についての、連続ツイートでした。
kenichiromogi 茂木健一郎
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「音楽とは生きる事だ」という台詞をしばしば音楽家から聞いたりしますが、「生きる事こそ音楽そのものなのだ」というと、さらにもっと広く、深い意味になる感じがします。
音楽に携わるものでなくても、なんか元気になる解釈だと思いませんか。
ところで…
「生命音楽の記録装置は、残念ながらない」
この言葉でわたしは、カズオ・イシグロの「わたしを離さないで」を唐突に想起しました。
「わたしを離さないで」の表紙の装丁には、一面に古いカセットテープがありました。

この小説で、「離さないで」と言われている「わたし」とは、人ではなく、「その人の思い出」であったり、「時そのもの」であったり…そんなふうに感じたことを思い出しました。
そう、けれど、カセットテープはないのです。
だからこそ今がとても愛しいのです。
ともあれ、茂木さんの連続ツイート、流してしまうのがもったいなかったので、
保存の意味で、この記事、書いてみました。

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