ジャーナリストのいない街

朝日新聞10/29のオピニオン欄で元NW記者のスティーブン・ワイルドマン氏が、アメリカの地方新聞の衰退について語っていました。
この5年で新聞広告収入は半減、経営不振によって休刊した新聞は212紙、記者の人数は2万人減少。それによって生まれたのが「記者のいない街」なのだそうです。
街から記者がいなくなると、どうなるか?
たとえばカリフォルニア州の小都市では…
●1998年頃に地方紙が休刊。
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●市役所に取材に来る記者がひとりもいなくなる。
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●市の事務方のトップが自分の給料を上げる。
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●誰もそれを報じない。
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●図に乗ってもっともっと上げる。
ということで、ある行政官は500万円の年収を6400万円まであげることに成功しました。
これは議会の承認も得ていて、つまり、他の役員や議員も抱き込んだ作戦だったわけです。
「給料の引き上げに成功」という甘い書き方をしましたが、この実態は「泥棒」です。それも他の議員たち(つまり民主主義を守る人たち)をも巻き込んだ集団泥棒です。
で、これを可能にしたのが記者の不在だったわけです。
これは、海の向こうの地方都市の話しにとどまらず、日本でも似たような状況でしょう。
それも、「記者がいない」からではなく、「記者(と称する人)はいるし、媒体もある」にも関わらず、同じようなことが起きているから不思議です。
たとえば、日本音楽著作権協会(JASRAC)の問題については、ほとんどの報道機関がなにも報じていません。わたしの記憶によれば、ダイヤモンドなどの雑誌を除けば、朝日新聞に1回取り上げられたことがあるくらい。
「道路公団総裁よりも高給をとる文化庁天下り役人」「実際の利用実態を無視した強引な取り立て」「そもそも彼らの定めたルールそのものが著作権法等の法令に抵触しているのではという問題」…など、報道ネタとしてもかなり美味しいはずなのに、どこも報じません。
包括契約という名の下に、各メディアは著作権料についてジャスラックから優遇されています。
だからジャスラックを糺せない…からだと言われます。
また、原発関連でも報道機関はその役割を果たしていません。
3月15日夜、茨城安全管理事務所から福島に応援に行っていた渡辺愼樹男氏は、山間部の3カ所の測定をピンポイントでで指示されました。3カ所とも高線度で1カ所では330マイクロシーベルト/時。…たった3時間で年間の被爆限度値(暫定ではない1ミリシーベルト)に達する数値です。
この「正確なピンポイントの指示」を与えたのが文科省。その時、SPEEDIがはじき出したシミュレーションがすでにあったのです。
しかし、テレビでは「直ちに人体に影響を与えません」のだだ流し。
SPEEDIの存在を、菅直人氏も海江田万里氏も枝野幸男氏も「知らなかった」と主張しているそうですが、震災直後には、あの堀江貴文氏がツイッターで普通にSPEEDIについて書き込んでいました。
本当に知らなかったとしたら、日本のトップ、そして、それを追求できない報道機関の情報力も含め、「一介の犯罪者」よりも劣っているということになります(現在、堀江貴文氏は収監中)(上記の元ネタは朝日新聞連載「プロメテウスの罠」=後になってこういう連載があることは、まあ評価できる)。
さて、冒頭で記述した、カリフォルニアでの「役人の合法的泥棒事件」を語るワイルドマン氏は、「記者不在」の対策として、次のような方法を提起しています。
「米国では地方記者の初任給は400万円ほど。もし住民が相違でその額を調達して記者をひとり雇っていれば、何十億円もの税金を失う(盗まれる)ことはなかった」
この動きは、日本で、いくばくかはあります。
今でも日本の数少ないフリージャーナリストは、寄付を受け付けています。
たとえば岩上安身氏、田中龍作氏、そして個人ではないですが、自由報道協会、などです。
しかし、これらの寄付形態は銀行振込がほとんどなのが残念。
カード決済やPAYPALの継続課金など、「払いやすさ」と「継続性」などがあればもっと良いと感じます。
ただ、こういう動きに対して既存の報道機関は冷淡です。
あるいは、むしろ邪魔しようとしていると感じる時もあります。
既存の報道機関が「なんらかの経済団体・政治団体などの支配下で生存している、あるいは支配を受けていなくても自主規制をすることで存在できている」のならば、「真の報道」を行う者は、自分の生存権を侵す敵になるのでしょう。
ということで、「NOP的報道機関」がどう生まれ、どう育つかはまだまだ霧の中です。
ただ「真の報道」は健全な世の中に絶対に必要なものです。
「よりよく生きていこう」と考える者ならば皆、その誕生と育成に手を貸さなければいけないと思います。
ワイルドマン氏はインタビューの最後でこう行っています。
「教師や議員、警察官や消防士がどの街にも必要なように、記者も欠かせないと確信」
日本の場合、まだその先にも問題があります。
記者が集めた記事を掲載する媒体が抱える問題です。
「景気や利益に左右されないNPO報道機関を作り、育てることだ」
これもワイルドマン氏の提案です。

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